弁護士 山田大仁
医療過誤と損害賠償請求

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医療過誤と損害賠償請求

医療現場での不適切な処置、診断ミスにより被害を受けた場合、病院に対して損害賠償を請求できることがあります。しかし、法的に「医療過誤」が認めてもらうのは簡単なことではありません。

医療過誤と医療事故の違い

「医療過誤」と「医療事故」の言葉の違いについて整理しておきます。

まず医療事故とは、病院等で起こる事故全般を指します。過失の有無は問われず、医療に関連して起こった事故であれば広く医療事故と呼ぶことができます。

一方の医療過誤は、医療行為に過失があった場合の医療事故ということができます。手術や薬の投与など、医療従事者の行動が原因となって起こるものです。

そのため医療事故だと誰にも責任を問えないケースもありますが、医療過誤であれば医療従事者に過失があったということですので損害賠償責任を追及することができます。

損害賠償請求の3つの要件

医療過誤として法的に認めてもらい、患者側が損害賠償請求を行うには、次の3つの要件は満たさなくてはなりません。

  1. 医師・病院側に「過失」があること(または故意)
  2. 「損害」が発生していること
  3. 過失と損害の間に「因果関係」があること

医師・病院側に「過失」があること

医師や病院のミスにより「やるべきことをやらなかった」、または「やるべきでないことをやった」場合に過失が認められます。

たとえば、標準的な検査を実施しなかった、患者が申告した既往歴や典型的な症状を見落とした、治療手順や手技に不備があった、治療リスクの説明をし忘れていた、禁忌処方をしたなどの背景があると過失が認められやすいです。

ただし、明らかな不注意とまではいえない医術的・手技的な問題については、「診療当時における医療の水準」を基準に過失の有無を判断します。つまり、仮に技術・医術の進歩により当時の行為が適切といえなくなったとしても、その行為時点で正しいと考えられていた処置であれば過失とは評価されません。

「損害」が発生していること

医療行為により患者に何らかの損害が生じていなければ賠償請求はできません。治療費、休業による収入の減少、後遺障害による将来の収入減少、身体的・精神的苦痛などの損害の存在です。

仮に、診療経過の中に十全ではない判断があったとか、医療関係者の言動に不快感を覚えた等というだけでは、慰謝料をはじめとする金銭の支払いを求めることはできません。この点は、近時、医療現場におけるペイシェントハラスメントが問題視されていることもあり、患者側においても慎重な言動が求められるところです。

過失と損害の間に「因果関係」があること

過失を伴う医療行為と損害の間に相当因果関係(法的因果関係)が認められないと損害賠償請求はできません。

ここでいう因果関係とは、「その医療行為があったか(医療行為がなかったから)患者が身体的損害を被った」といえる関係のことです。反対に「その医療行為がなくても(その医療行為があっても)身体的状況になっていた可能性が高い」という状況では相当因果関係(法的因果関係)は否定されます。

たとえば救急搬送された患者が、救急搬送開始時点において、既に手遅れの状態にあった(死亡に向けた因果律が不可逆的な状態にあった)のなら、その後の医師の行為と患者の死亡の間には相当因果関係(法的因果関係)は認められません。

また、相当因果関係(法的因果関係)の存否については、患者側はその存在を証明しなければなりません(立証責任を患者側・遺族側が負担します)。医療過誤以外の事案でもそうですが、損害賠償請求を行うには請求側が「相手方に過失があった」と主張立証しなければならないためです。

医療過誤の事案は特に専門性が高く証明は容易ではありません。自身のことやご家族の身体生命に関わることですが、前述のペイシェントハラスメントの問題もありますので、医療機関側の責任追及を検討されるという場合、早めに専門家に相談して対処することが重要です。

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